一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「最近、色んな噂が回ってくるけどさ、全部デマだったわかってることだし、気にしないで頑張れよ」

「そうですね。気にしていないので、大丈夫です」

 背の高い早川さんを見上げるようにして笑顔を見せた私を、彼はどこか痛むような哀れみを含んだ眼差しで見下ろす。

「そんな……泣かないでくれよ……」

「え?」

 早川さんが何を言い出したのかわからずに何度か目をしばたたき、すぐに気がつく。

(あれ? なに、これ?)

 瞬きをした目から、すうっと冷たい雫が落ちた。


 それが涙だと気がついた時には、私は早川さんの腕の中に捕らわれていた。


「はやかっ……!?」

「柴崎さん、男の前で涙なんて見せるのは反則だ」

 彼の胸に押しつけられたまま、私は呆然としてなんのリアクションも返せない。

 それをどう受け取ったのか、早川さんはますます私を強く抱きしめる。

「俺……人事にいたときから柴崎さんのことが気になっていたんだ。でも彼氏がいて、いつも幸せそうにしていたから、無理だってわかってた」

 でも、と一度息を吸い込んでから早川さんは口早に告げた。

「もう彼とは別れたって山際から聞いた。俺、柴崎さんのことを守りたいって強く思っているんだ。だから、俺の彼女になってくれないか?」


 今、私は混乱の渦の中。


 何も考えることができずに、ただ早川さんの腕の中で身動き一つできないままだ。


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