一寸の喪女にも五分の愛嬌を
(何、これ……)

 早川さんは頼れる先輩としか認識はない。

 彼からアプローチを受けたこともないし、それらしい言動も一切なかった。

 三つ年上の今、丁度三十歳のはずで、背が高く顔立ちも悪くないので独身女子社員の中でも結構噂には上がっていたが、そういえば彼女がどうのなんて話は聞いたことがない。

 自分がその手の噂に興味がないから耳に入らないというのもあるのだろうが。


(……でも、全然)


 いきなり二人きりの部屋で抱きしめられているというのに、全然ドキドキしない。

 不思議なほど落ち着いている。

 よほどスマホでゲームをしている時の方がドキドキしているくらいだ。


 だから私の答えは決まっている。


「早川さん、私は――」

 言いかけた私を、またグッと自分の方へ押しつけた早川さんが、ゆるりと首を振ったのがわかった。

「今はその続きを言わないでくれ」

 声のトーンで続く言葉を感じ取ったのだろうか。

 私が何を言おうとしたのか、聞かないで押しとどめる。

「今、色々と言われている柴崎さんを守ることさえできない俺は情けないと思われても仕方ない。これから俺が君の名誉を全力で取り戻すから、問題が解決した暁には付き合ってくれないか? その時に改めて申し込むから、考えていて欲しい」
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