一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 くるりと体を反転させて、早川さんを見つめた。

「本当にごめんなさい。もう私には関わらない方が早川さんのためにもいいと思います。今日聞いたことは忘れます。どうか総務課で波風立てずに過ごしてください。それが私の願いです」

 早川さんが息を呑んだのがわかった。

 彼を見ないように視線を落としたまま、彼に背中を向けようとしたが、大きな手のひらで両肩を掴まれた。

「早川さ――っ!」


 唐突に唇が塞がれ息を詰める。


 二人きりの会議室が、急に真空になったように思えた。

 息苦しく、音も消え去り、色が失われていく。


 一体、今、何が起きているのかの状況判断もできずに息を詰め棒のように立っているだけ。

 そんな私の唇に、早川さんの唇が重なっている。


 やがて静かに彼は顔を起こす。


 ゆっくりと離れた彼を見つめるでもなく、私はだた会議室の大きな窓の外から曇り空が広がっているのを、呆然と見開いた目で見ていた。

「……ごめん。驚かせた」

 早川さんの声はひどく静かに聞こえる。

 私が一言も発さないままだったから、早川さんは言い訳を始めた。
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