一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 ほぼ駆け足に近い足取りで飛び込んだ小さな公園にも、たくさんのサラリーマンが歩いており、この感情を吐き出せる場所など、近くには全くなかった。


「……帰ろう」


 呟いてから気がつく、鞄も持たずに出てきたことに。

 会社に戻らなければ定期も財布も鍵もない。スマホだけは上着のポケットに入っているけれど、どちらにしろ鞄を取りにもどらなければならない。


 私は多分、怒っている。


 ――女は男が守るもの。


 暗にそういう言い方をされたことが、私の感情に火を点けた。

(女はか弱い? いつだって男は勝手に幻想を抱いている!)

 二年前、私の目の前に並んで座った二人は言った。

 ――『薫は一人でも立っていられるほど強いよね。でも彼女は……か弱くて守ってあげないとダメなんだ』

 ――『ごめんなさい、薫……。彼は私を、私は彼を選んだの。許して……』

 高校からずっと親友だった綾乃は大きな瞳に涙をうかべている。
 その姿は確かに庇護欲を刺激するか弱さだった。

 彼女は知り合った時から、私と正反対のタイプで人の前に出ることを嫌う控えめな女の子だった。

 可愛く従順そうな彼女はとてもモテていたけれど、誰かと付き合うことさえ怯えてしまうほど小心者だったはずなのに。

 いつの間に、私の彼氏を奪うほどの度胸を身につけたのだろう。

 相手が彼、宗一郎でなければ諸手を挙げて彼女の成長を喜んだのに……。
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