一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 同じ部署に女は三人しかいないのに、他の二人の連絡先も知らない。

「仕方ないか。こんな姿だけど取りに行くか」

 成瀬には頼れない。

 諦めて歩き始めたけれど、その間も雨は遠慮なく私に降り注ぎ、まさに濡れ鼠だ。

 会社の前に到着した時、丁度稲田さんが出てきたところで、すぐに濡れそぼる私に気がつき駆け寄ってくれた。

「柴崎さん、どうしたんですか!?」

 いつも穏やかで目立たない彼女の持つ落ち着いた雰囲気にホッとする。

 私に傘を差しだしつつ鞄からハンカチタオルを取り出した稲田さんが首を傾げる。

「もしかして何かありましたか?」

 彼女は意外と鋭い。

 悪い意味ではなく、よく人のことをそっと観察しているのだろう。

 他人に関わりたくないと人との関係をシャットアウトしている私とは雲泥の差。彼女こそ人事課にふさわしい人物で、私は彼女に遠く及ばない。

「鞄を……社内に置いたままなのですが、この格好では取りに行くのがちょっと……」

 言いよどむ私の言葉に稲田さんは笑みを浮かべた。

「私、ロッカーに簡単な着替えを置いているんです。良かったら着替えませんか? そのままでは電車にも乗れないでしょう? 一緒に行くから大丈夫ですよ」
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