一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 私なら、きっと誰かのためにこんな風に怒ることもできない。そんな乾いた女のために、目の前の彼女は声を震わせてくれている。

(だから泣きたくなるから、困るな……)

 心の中で苦笑する。

 稲田さんは大きく息を吸い込んでから、自分の胸に手を当てながら話を続けた。

「柴崎さんは優秀です。こんなつまらない噂を流され、子どものような嫌がらせを受けるべき人ではありません。私の知人の紹介なら今の職場と同じくらいのいい条件の会社を紹介できるの。ね、ぜひ紹介させて。こんな理不尽な扱いを、これ以上柴崎さんに受けてもらいたくないの」

「……でも」

「ね、お願い。少し考えてくれないかな? キャリアアップして行きたくない? こんな酷い噂を平気で流すような女子に苦しめられることなんてないの。ね?」


 青天の霹靂だ。


 転職など考えたことはなかった。

 彼氏と別れた時から、自分は一生独身でいると思っていた。

 もう男なんかに頼る自分は要らない。一人で生きていく。

 そう思っていたから、一生この会社に骨を埋めるつもりだった。

 だから私は声を失ったまま、食事の手も止めて稲田さんを見つめていた。
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