一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 彼女の背中を見送り私も電車に乗り込む。


 ガタンガタンと響く電車の音も耳からすぐにこぼれ落ちていく。

 足下はふわふわとして雲の上にいるようだ。


「転職か……」


 最寄り駅に到着し、改札から吐き出された私は空を見上げる。 

 また一雨来そうな空模様。
 星は分厚い雲に隠され月もどこにいるのかわからない。

 まるで今の自分の心の中のみたいだと思う。

 真っ暗で、道を指し示す光もなく、雨が落ちてきそうな空気の重たさ。

 酔っているのかもしれない。少し足下がゆらゆらと揺れている。


 人事課にいると途中で辞めていく人を少なからず見ている。

 その理由は様々だが、女性ならば結婚やご主人の転勤を機に退職する人が多い。

 男性ならばすぐに挫折してしまう新入社員を除けば、ほとんどはキャリアアップしていく人が多く、あとは時々親の介護なんて理由もある。


(結婚でもないのに、転職なんて考えてなかった……)


 フラフラと歩きながらとりとめなく考えていると、やがて住み慣れたマンションが見えてきた。

 就職してからずっとこのマンションに住み続けている。

 一度、手酷く失恋した時には、よほど引っ越そうかと考えたけれど、結局引っ越しは思いとどまった。


 そのマンションの入り口に一人の人影を見つけ、私の顔は強ばる。
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