一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 よもや三次元男子の声でドキリとする日が来るなんて思いもしなかった。

 イケメンボイスとは全く違うけれど、いくらか鼻にかかったような声で彼――つまり成瀬はすぐに続けた。

「ねえ先輩、今から家に行ってもいいですか?」

 何を寝ぼけたことを言い出しているのだ?
 どうしてこいつが私の家にこれから来る必要があるのだと言うのだ?

 冷静な私が「ふざけるな。二度と踏み入れさせるかぁ!」と叫んでいるのに、体のどこか奥深く、指先か、それとも足先か、どこかわからないほど奥深くから、「会いたい」なんて感情がわき上がっている。

 困惑して私は目を閉じて、しばらく無言になってしまった。


 スマホを通して聞こえて来るのは、小さな雑音。


 私は自分に賭けをした。

「ねえ、外からみたいだけど、どこからかけてるの?」

 賭けの問いかけだ。


 もしもあいつが会社の近くや賑やかな飲み屋の近くからなから、断固として拒否しよう。

 けれど、もし、本当にあり得ないだろうけれど、もしも既にこの近くまで来ているのなら家に入れてあげよう。


 そんなささやかな賭けをしたのだ。


「ああ、俺、今ね――ごめん、先輩のマンションの下」

 キュッと、胸が音をたてた。それからすぐにドクンドクンと心臓が大きな音をたて始める。
< 62 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop