一寸の喪女にも五分の愛嬌を

 ――どうして……近くまで来ているのよ!

 なじりたい気持ちと

 ――そっか、ここまで来ているんだ。

 なぜかホッとする気持ちが、複雑に混じり合い私は自分の感情の答えを見つけられない。

 だから会社では決して見せないキツい口調で成瀬に言った。


「バカね、こんなところまで来て。私が不在だったらどうするつもりだったのよ」

「もしも先輩がいなくてもいいんですよ。俺が会いたいと思っただけでここに来てしまっただけなんで、会えなければ仕方ないと思ってます」

 そんなことをしれっと言うのは、遊び慣れた男の手管なのだろうか。


(それでもいいか……)


 その手管に引っかかってやろうじゃないのと、どこか挑む気持ちさえ湧いてきた。

 どうせ今日はスマホ中の王子様とデートする気分じゃない。

 聞こえるように、わざと大きな息を吐き出し、呆れたように告げた。

「はあ、仕方ないわね。ここまで来ているのに追い返せないでしょ。いいわ。入ることを許可します」

「ありがとうございます。すぐに行きます」

 追い帰すのが可哀想だもん。

 それは自分に言い聞かせている言い訳だと自覚しているけれど、今は見ないふりをして、手早く鏡に自分を映す。

(うん、まあまだマシか)

 シャワーも浴びて化粧も落としてしまっているけれど、それほど酷い様子ではないことにホッとし、すぐに「なんであいつが来るからって気にしてるのよ、私」と自己嫌悪に陥った。

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