一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 一分もしないうちに、玄関のチャイムが私を呼び出した。

 多分、わざと。

 玄関の扉をゆっくりと開け、さらに不機嫌な顔で成瀬を迎え入れたのは、多分、わざとだったはず。

 けれどあいつの顔を見た瞬間に、自分が何をしたくてどうしたかったのか全て忘れた。

 なぜならば、扉の中に笑顔で踏み込んできた成瀬に、いきなり抱きすくめられたからだ。


「な……」


 しばし絶句して、すぐに私は腕を突っぱねて成瀬を引きはがす。

「ちょっと、何これ!? セクハラ? 即刻出て行け!」

 玄関で突っ立ったまま鬼のように叫んだ私に、成瀬は「まあまあ」と気にした様子もなく破顔する。

「良かった、先輩変わらないじゃん」

「はあ!? 何が良かったよ。頭どこかに打った? こんなところにいないで病院でも行ってきなさいよ」

「いやあ、先輩、一人で落ち込んでいるんじゃないかと思ったら、俺、いてもたってもいられなくて、思わずここまで来てしまったんですよ」

「どうして私が落ち込むのよ」

 言った瞬間、気がついた。

(もしかして……私の悪い噂を気にして……?)

 口を閉ざした私に、成瀬は苦笑しながら肩をすくめる。

「ね、上がってもいいですか?」

「……どうぞ」

 成瀬が心配して来てくれたことはとても嬉しい。ただそれと同じだけ、心配されるほど酷いことを言い回られているのかと思うと、お腹の中に黒くて重い鉛を打ち込まれたような気になった。
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