一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 成瀬は勝手知ったる部屋のように、ベッドに腰掛けて放り投げたままの私のスマホに視線を遣る。

「今日はゲームしてないんですか?」

 気持ちがへこんでいるからゲームに乗り気になれないなんて、言えない。

 冷蔵庫に冷やしている缶ビールを取り出し、成瀬に手渡した。

「ご心配かけました。お詫びのビールよ。でも私なら何を言われても平気だから、これからは気にしないでいいわ」

 強がりながら話題を逸らせたことに、成瀬は気がついただろうか。

 軽くプルタブを開けて、私へと缶を差し出した。

 さっき開けようとして成瀬からの電話で中断させられたままの、三本目のビールのプルタブを私も引きあげる。

「まあ、それでもお礼は言っておくわ。ありがとう」

「じゃ、遠慮なくいただきます」

 コツンと軽く缶を触れ合わせ、互いにビールを傾けた。

 素直に笑う成瀬は本当に可愛くみえる。

 さっきまでイライラとして沈んでいた心に、柔らかな布がかぶせられたような心持ちがしている。

(ダメだわ……きっとこれがほだされるって状態なのかもしれない)

 私は気を引き締めて成瀬を見ないように顔を背けて窓の外を見た。

 しばし無言でビールを飲んでいた成瀬が、コトリと音をさせてテーブルに缶を置き、目を逸らしている私の目の前に膝をついた。

「先輩」

「ちょっ……近いよ!」

 グッと距離を縮めてきた成瀬に、私は体を固くする。

 さっき不意打ちで抱きしめられたから警戒してしまったのだ。
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