一寸の喪女にも五分の愛嬌を
それならばムダに話しかけられて、更にイラッとしたのも頷け――

(頷けるかぁ! ちょっとくらい待てないなんて大人げないわぁ!)

 どちらにしろ、今の成瀬は私とは話すつもりはないのだろうと判断して仕事に戻ろうと足を踏み出した途端、成瀬に腕を掴まれた。

「なる……っ!?」

「帰り、ちゃんと待っててくださいよ」

 それだけを小声で告げた成瀬は、私の返事も聞かないでさっさと仕事に戻って言ってしまった。

 唖然としてその背中を見送った私は、しばらく金縛りに遭ったように全ての身動きを止める。


(な……なに、あいつ……)


 それだけを言うために来たの?

 それともたまたまここで会ったから言ったの?

 それにやっぱり本気で一緒にご飯を食べに行くつもりなの?


「……私の返事も聞かないで、身勝手な奴」


 ぼそりと口の中で呟くのは、いつもの可愛げのない悪態。

 そのくせ胸はドキドキと高鳴り、頬はきっと赤くなっている。

 一瞬だけ掴まれた腕が妙に熱くて、こそばゆい。
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