一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 なぜそこに行きたいと思ったのか、自分でもわからなかった。

 そこは思い出深い場所でもないのに。いや、むしろイヤな思い出の場所かもしれない。

 昔の彼氏と出かけたことのある場所なのだから。

 その時は水族館を見て回っただけで、レストランで食事をしなかったが、その後にレストランが紹介されている記事を雑誌で見つけ、いつか行きたいと思っていたのだ。

(だからって……なんで成瀬を誘ってんのよ、私は)

 女同士の付き合いも極力しておらず、男の人と出かけることなど皆無。
 人と一緒に夕食に出るのは会社の歓送迎会程度しかない。

 そうなるとこんな洒落た場所に行くことはずっと叶わなかった。

(場所が会社からいい具合に遠いから、誰にも会わないから……だからここがいいんだって。近場じゃ誰かに見られた面倒になりそうだもんね)

 言い訳めいたことを考えながら、それでも送信を押すのに何度も躊躇する。

 ちょっと誘えば調子に乗って、張り切ってると笑われるんじゃないかとか、喪女のくせにこんな雰囲気のレストランを選ぶとか笑えるとか、そんなことを思われてしまうんじゃないかと思考が堂々巡りを繰り返す。

 送信のボタンを押そうとして、また指先を握り込む。

 こんなにウダウダと悩むなんて……自分でも呆れてしまう。
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