一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 周囲に迷惑と不快感を与えないなら、自分のしたいことをし、やりたいようにやる。

 ずっとそんなスタンスで生きてきた。

 以前に付き合っていた彼氏の前だって、ずっとそんな態度で、どこかへ行くのも何をするのも私が調べたり決めたりしてきた。

 優しくて言うことをなんでも聞いてくれた彼は、いつも「薫の好きなように選んでくれたらいいよ」と穏やかに言ってくれていた。

 ずっと彼のそんな言葉に甘えていたのかもしれない。

 いつの間にか私は彼を軽く見るようになっていたのか、それとも彼が私を重く感じるようになっていたのか。

 知らない間に彼の心は私から離れていった。


(って、感傷に浸っている場合じゃないわね。さっさと送信しちゃおう)


 ええい、行ってしまえ!


 半ばやけくそ気分で送信のボタンをタップした。

 と、すぐに斜め向かいの成瀬がジャケットの内ポケットからスマホを取り出し、画面を確認している。

 その姿を見るには恥ずかし過ぎて、私はうつむき仕事に熱中しているふりで書類の間に顔を埋めた。

 それから終業の時間まで、仕事に追われてずっと成瀬の方など一切見ることはなかった。
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