一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「先輩……ちょっと、それナシ」

「なし?」

 成瀬が押し出すように言った言葉の意味がわからず眉根を寄せたが、すぐに気がついた私は口を閉ざす。

(もしかして……成瀬には不愉快だった?)

 成瀬といるのは悪くない時間だと言ったけれど、彼にとっては気を遣う先輩と仕方ない食事の時間だったのかもしれない。いや、きっとそうだ。

 嬉しいとかワクワクしたなんて、女性の扱いに慣れている成瀬にとっては、気軽な社交辞令だったはずだ。

 それなのに私があんなことを言ってしまったから、成瀬は気分を害したのだろう。

 私の発言を「ナシにして欲しい」ということか。


 ジクリと鈍い痛みがお腹の中に落ちた。

 決して鋭い痛みではないのに、それは重たくて胃の辺りにわだかまる。


 ――喪女が調子に乗っていい気になるな。


 誰かに言われた気がした。


 それこそ、敵対してくる女子社員たちに散々言われていたけれど、今までは自分と成瀬に何一つ関係ないことだからこそ、欠片も動じなかったし勝手に言っておけと思っていた。

 けれど成瀬といることで、少しいい気になっていた自分に自覚してしまった途端、その言葉の重さが体全体にのしかかる。

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