一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 一瞬にして食欲が失われてしまったけれど、その痛みを押し流すように私は一息でワインを飲み干し、それからいつも会社で浮かべているような笑顔を作り、明るく言った。

「成瀬、おしゃべりはこれくらいにして食べましょう。美味しそうだよ」

「そ、そうですね」

 ぎこちなく顔を起こした成瀬の表情を見るのが怖くて、私は目の前のお皿に視線と落とす。

 ロウソクの淡い光の中、私たちは食事を始めた。

 それからは仕事の話や、私の同期の山際のこと、それに成瀬がいた福岡の話をしてくれ、楽しく過ごすことができた。


 成瀬は相当に気遣いができる男だ。


 歓迎会の時からそれは思っていたけれど、今は尚のこと実感する。

 食事のペースも話題も声のトーンも、全て相手に合わせて調整しているのがわかる。

 しかも相手に決して気取られないほど自然にこなしている。

 私のようによほど注意して見ていなければ、誰も気がつかないだろう。

 昔の彼氏も周囲に気遣いばかりする人だった。

 けれど成瀬の気遣いと違い、彼は揉め事やいざこざが起きないように気を回していたのだと、別れてから気がついた。
 
 だからきっとこんな性格な私に対して、疲れてしまったのだろう。

< 93 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop