一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 例えば「先日は美味しいご飯を奢ってくれて嬉しかったから、今日はお礼なの!」とか「負担かけたくないの、私にも奢らせて?」なんて可愛く小首を傾げながら、上目遣いで甘えた声でも出せたのなら、もっと自分の世界は違うものになっているのかもしれない。

 けれど愛想も愛嬌も持ち合わせていない私には到底無理だ。

 しかも言うに事欠いて、給料がどうのとか、無駄遣いだとか、可愛げがないどころか憎々しい言い方になっているのは自覚している。

 けれどそんなツンケンした言い方に気分を悪くすることなく、成瀬はお店を出るや爽やかに笑って頭を下げた。

 遅くまで開いている水族館の出口のそば、それも金曜日の夜なので、まだそれなりに人通りがある。

 成瀬をチラチラと見ながら通り過ぎるOLらしき人たちがいる。

 やはりこいつは目立つ男なんだな、と目の前で笑みを浮かべる成瀬を見ていた。

「先輩、ごちそうさま。今日は素直に奢られておきますね。でも男として女性にお金を出させるのは、ちょっと不甲斐ないです」

「彼女じゃないんだから、無理に奢ろうとしなくていいのよ。今は男も女も給与の査定には違いはないでしょ。男ばっかり負担しようとすることないのよ。だから……」

 軽く息を吸い込み、言いよどみそうになる言葉を、私は思いきって紡いだ。
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