見えない何かと戦う者たちへ

明日香の脳内一人ボケツッコミの終了と同時に
垣内が口を開いた。




「聞くなら本人から聞こうと思ってたんだけどさ、
そのってどんな奴だった?
それと、家族にあったことあるか?」




明日香は目を閉じてむかしのソノを思い浮かべた。

中学は同じではなかったし
実は小学5年生のときに引っ越したのでそこまでのソノしか知らなのだ。



「今とあまり変わらないと思うけど、
昔はもう少し人と話たりしてたし、
潔癖症(?)もあんなにひどくなかった…
と思う…。

そのの家族には会ったことないけど
子どもだったから子どもなりの解釈になるけど
”お偉いさん”だっていう噂が
あった気がする…。」




と知ってる風にしゃべっているが
実は幼いソノの顔を思い出せない。

なんせもう五年は経っている。

卒業アルバムを見ても五年生で
いなくなった彼の顔写真なんてない。


明日香が覚えているのは
ソノの噂とか印象くらいだ。

いやそれさえも
曖昧だ。





「ずいぶん曖昧な語尾だな」


垣内の感想に
頷くことも出来なかった。






…違うと思いたい。

明日香はげんなりしたした。
顔がもう女子と思えない状態になっている。

下から聞こえる女子の悲鳴の原因が
自分の知ってる人ではないと信じたいと願っていた。




垣内が隣で「お偉いさん…」とつぶやいたので
慌てて真剣な表情に戻す。




「じゃあ、私の番ね」

「ああ、
でも俺に聞くことなんてあるのか?
俺よりもソノのこと知ってるだろ」




さっきまで沈みかけていた日が
もうほぼほぼ沈んでいた。

視線の遠くでオレンジ色の細い線が見える。

もうさすがに帰った方がよさそうだが、
二人ともその場から一切動こうとはしなかった。




「…垣内、
あんた
そののこと全然知らないって口してるけど
本当はどこまで、いや、何を知ってるの?」



彼女同様
遥か彼方の空と空の間を眺めていた垣内は
手を伸ばせば届くところにいたアリを観察し始めた。

…下から連写の音と悲鳴が聞こえるが、
気のせいだと思いたい明日香だった。





___パシャパシャパシャ・・・・

___キャーーーー

___ドタドタドタ・・・・






気のせいだと思いたかった。

また別のところから
また違った悲鳴が沸き起こった。





「…なんか騒がしいな
俺だけだよな、嫌な予感がするの」





恐る恐る明日香の方を振り向いた垣内は
いつもの味覚音痴の垣内だったのでなんだか安心した。

が、
それどころではなさそうだ。

なぜなら、
明日香も嫌な予感しかしないからだ。



もう日は完全に落ちた。

明かりのない屋上は真っ暗に近い。

二人は顔を見合わせため息ついてから
立ち上がった。






「…どっち行くか?」

「私は懍の方行くから、」

「じゃあ俺は中二病の方だな」



明日香がいう前に答え、
そのまま走り去った。

しょうがないので
明日香も急いで屋上をあとにした。


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