今夜、あなたの胸で……《完全版》
何を言っているのかわからなかった。



琉生が芸能界に入るって知ったとき、わたしは琉生に想いを打ち明けた。


芸能界に飛び込んだら、もしかしたら簡単には琉生に会えなくなってしまうって思ったから。


だから、あのとき勇気を出して想いを告げたのに……。


琉生は、



『サンキュー』



としか言わなかった。



「じゃあ、何であのとき何も言ってくれなかったの!?」



ちゃんと言ってくれれば、あまり会えなくても琉生のことを待っていられたのに。


今さらそんなことを言われても遅いよ。



「ちゃんと一人前に立てるようになったら、彩未を迎えにこようと思ってた。俺、彩未なら待っててくれるって、信じてたんだ」


「……」



それは、『好き』という言葉をくれるからこそ成立するものだよ。


あのときの琉生はそんな言葉は一言も言わなかったのに。
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