今夜、あなたの胸で……《完全版》
わたしには悠貴がいるのに。


凄く優しくてあんなに大切にしてくれる人は彼以外にいない。


そう思ったら、こんなことをしていてはいけない、と両手に力を入れて琉生の体をぐいっと押した。



「何すんだよ」



そのせいで距離が空いてしまったことに不満そうにそう漏らす琉生。



「帰って」


「は?」


「もうマスコミはいないでしょ?」


「……」



ここに入ったのを見ていなければ、一晩経ってしまえばもういないはず。


なにか言いたげな琉生を残して、わたしはベッドから降りるとそのまま洗面所に逃げ込んだ。



半年前、悠貴と付き合い始めたときに琉生への想いは封印した。


これからは悠貴だけを見ていくって決めたはず。


こんなことで揺れたりしたらダメ!


自分にそう言い聞かせて、冷たい水でバシャバシャと顔を洗った。
< 6 / 48 >

この作品をシェア

pagetop