あの日ぼくらが信じた物
 ぼくらは寒さでどうかしちゃっていたみたいで、ならなくてもいい筈の険悪なムードに突入していた。

 だってぼくらには石が有るんだから、電車賃のことでケンカする意味なんかハナから無いんだ。


「あきらくん」


「なんだよみっちゃん!」


「石で跳べばいいんじゃないの?」


「そうじゃん、そうだったよ」


 そうしてぼくらはハリファックスを後にする。余りの寒さに直接バンクーバーへ行くのはやめて、一旦神社に戻っていた。


「うっわぁぁあ、さみかったぁ」


「ホント。凍り付くかと思ったわね」


「もうこんな時間だけどどうする?」


 ぼくは鼻水をすすりながらみっちゃんを見上げていた。寒さで紅潮した頬や唇が、化粧したみたいに鮮やかな色を見せている。


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