あの日ぼくらが信じた物
「あきらくんもいつまでもそんな格好してると笑われるわよ? ほら、貸して」


 みっちゃんは半ば強引にぼくの手袋を外した。確かに、毛糸の帽子を被ってマフラーをグルグル巻きにした分厚いコート姿のぼくは、春の装いとは程遠い。


「じゃあまた明日」


 そうして2人分の荷物を抱えてみっちゃんちの前まで来たぼくは、彼女のバッグを渡すと手を振った。


「うん。あきらくん、有り難う。また明日ね」


 そう言って玄関ドアを閉めるみっちゃんの顔は何故か寂しそうに見えた。

ぼくは家に帰ってからずっと、その顔が頭にこびり付いて離れない。きっとあの秘密には触れちゃいけなかったんだと思いながら、やっとのことで眠りに就いたんだ。


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