あの日ぼくらが信じた物
 ぼくはそんな母をグイグイと押し退けながら続けた。


「ご飯掻っ込んですぐに行くから待っててね!」


 それからぼくらは自転車に荷物を載せて、意味もなく駅の方まで足を伸ばした。春の風がみっちゃんの長い髪を、ワンピースの裾をいたずらに舞い上げる。

恥ずかしそうにそれを押さえながら歩くみっちゃんは、気高くも艶かしい。道を行く男共も、そして女性達も眩しそうにみっちゃんを振り返るんだ。


「ほらみっちゃん、あそこの男。口開けてこっちを見てる」


「ああほら、あの女の子も見てるね。知り合いじゃないでしょ?」


 みんなみっちゃんの見事なプロポーションと輝かんばかりの白い肌とその完璧に整った顔立ちに、きっと振り返らずには居られないんだとぼくは思った。


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