あの日ぼくらが信じた物
「あんな親でいいと思う? ねぇみっちゃん」

「ホント、子供が遭難しかかってるっていうのに冷たいものよね」

「ははは、みっちゃん! 座布団1枚。ほらあと少しだ、頑張ろう!」


 ぼくは手を引っ張ったり背中を押したりしながらみっちゃんを励ました。


「はっ、はっ、あとどれ位?」


 赤いカウボーイハットに隠れて表情は見えないけど、みっちゃんの声はかなり苦しそうだ。


「もう少しだ。ほら、手を貸して」


 転んでもいいようにとはめさせられていた軍手を脱いで差し出したぼくの手に、同じく軍手を外したみっちゃんの小さい手が重なる。

そして2人は力を合わせて、とうとう頂上へと登り詰めた。



  ヒュォォォォオ



 急にひらけたその眼下に広がる山並みに、一陣の風が吹き渡る。


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