あの日ぼくらが信じた物
「風が気持ちいいね、あきらくん」


「うん。みっちゃん、ここまで良く頑張ったね」


 展望台に並んでその風を浴びていた2人の手は、離れることなくしっかりと握り締められていた。

 突風にあおられて脱げてしまったカウボーイハットの下から現れた、ピンク色したみっちゃんの顔。栗色の髪をきっちり編み込んだお下げが風に遊んでいる。

 みっちゃんは紅潮した顔で風景に見入っていたけれど、ぼくはと言えば景色を見る振りをして、ずっとみっちゃんの横顔を眺めていたんだ。


「綺麗ねえ、あきらくん」


「うん。凄く綺麗だ」


 この時ぼくは恋心とも違う、純粋に美しい物を愛でる眼でみっちゃんを見ていたと思う。今となっては取り戻すことの出来ない、子供ならではの貴重な衝動だった。


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