あの日ぼくらが信じた物
 その春4年生になったぼくは、少し見慣れない景色と顔ぶれに、ようやく違和感を覚えなくなってきた所だった。

クラス替えをしたとは言え、2クラスしかないぼくら遠泉トオイズミ第2小学校の4学年は、誰もがほとんど見知った顔ばかりだった。

残念なのは4年から3階の教室に移って、授業中にいつも眺めていた桜の木がてっぺんの部分、ほんの小枝3本分しか見えなくなってしまったこと。

窓から一番遠い、廊下側の席になってしまったことも災いし、桜の木とのお喋りが出来なくなっていた。


「はぁ……」


 みんなに聞こえないようにタメ息を吐いて、新しく担任になった中尊寺チュウソンジ先生の話に耳を傾ける。


「でね? これはカタマリでもって考えるといいのね?」


 大小のサイコロを教壇の下から引っ張り出して説明を始める先生。

1年や2年だったらまだしも、ぼくらはもう4年生なんだから、子供扱いはやめて貰いたい。

ぼくがあまり中尊寺先生を好きになれなかったのはそのせいだ。


「はぁっ」


 今度は少し大きめのタメ息をついて、雲と電線しか見えない窓に視線を移した。


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