あの日ぼくらが信じた物
「こんな暑いのに？　でも行くんだったらウチだけで行けばいいじゃん」


　ぼくは願ってもないその提案に、乗り気の無い素振りを返してしまう。


「す、鈴木さんがな？　父ちゃんに釣りを教えてくれるって言うんだよ」


　言葉につっかえながらも一生懸命連れ出してくれようとしている父に、素直になれないぼくは、こう冷たく言ってしまった。


「じゃあ父ちゃん達だけ行けばいいじゃん。ぼくは留守番してるから」


「んなっ、なんだてめぇは！　親の気持ちも知らねぇで、ああ勝手にしろぃ！」


　ぼくだって叫び出したい気持ちだった。何故そんなことを言ったのか、言わなければならなかったのか……、自分で自分を理解出来なかった。

父は怒ったまま風呂に入ってしまい、ぼくは謝る機会さえ失ってしまっていた。


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