あの日ぼくらが信じた物
「なんだよへんちくりんって! 明美だって賛成したじゃないか、これ買う時」


「そうだった? もうすっかり忘れちゃったわよ」


 明美はみっちゃんママの名前だ。この夫婦は実にいいコンビだと思う。ウチの父母チチハハも何だかんだ言っても幸せそうだし、大人同士の付き合いはそういう所もきっと大事なんだろう。

乗り込んだその車はシートの数が多いので、ぼくはみっちゃんの側に座れなかった。いや敢えて座らなかった。隣に座ってしまったら、気まずくなるのが目に見えていたからだ。



車中───────



 夏休み始めとはいえ、田舎の林道を走る車内は、冷房を入れなくても充分爽やかだった。

木漏れ日がキラキラと煌めいて、ぼくに優しく語り掛けてくる。

その輝きは今まで胸につかえていた感情が、「酷くつまらないちっぽけな物」なんだ、と教えてくれているかのようだった。


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