あの日ぼくらが信じた物
「わぁぁっ! いいじゃない! ここ」


 当時はアウトドアも今ほどはレジャーとして浸透していなかったので、川原に直接車で降りて行く事が出来た。

ぼくらがカマドを設けた場所は、川へ大きく張り出した太い枝の木陰が、丁度良く日射しを遮ってくれる絶好のポイントだ。


「よし、カマドの準備も出来たし、我々はメインのオカズを仕入れに行きましょう」


「初心者でも釣れますかね、鈴木さん」


「最初から意外と釣れて、ハマってしまう人も居るんですよ? でも正直、時の運です」


 父親達はそんな話をしながら上流へ歩いて行き、母親2人は四方山話をしながら料理の下ごしらえをしている。


「みっちゃん」


 ここに来るまでの間に、自然から沢山の勇気を貰った気になっていたぼくは、思い切って声を掛けた。


「……あきらくん」


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