あの日ぼくらが信じた物
「でも安心して?」


 みっちゃんママがクーラーボックスから取り出したのは、タレと一緒に袋に入った肉だった。


「こんな事も有ろうかと思ってね。持ってきたのよぉ」


「さっすがみっちゃんママ」


「鈴木さん、やるわねぇ!」


 今までも何度か当てが外れた事があって、こういう時には必ず、保険の為に持って来るようになったんだとか。


「でも鈴木さん。悪いから帰りのガソリンもうちで出しますよ。いや、出させて下さいね?」


 大人はなんだか色んなバランスを取りながら付き合っていく物らしい。考えてみれば子供だってそうだ。

しかし未成熟ゆえに制御や説明が不可能な言動を自ら招いてしまうこのジレンマを、大人の彼らは理解出来ないだろう。


「子供にもそれなりの苦労は有るんだ」


 ぼくはその言葉を焼きたての牛ロースと共に胃袋へ飲み込んでいた。


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