あの日ぼくらが信じた物
「母ちゃんはすぐ頭ごなしに物を言うんだか……あれ?」


 物干し場に母の姿は無い。子供部屋にも、両親の寝室にも見当たらなかった。


「母ちゃん! 母ちゃん?」


 少し慌てて階段を降りると、すました顔で洗濯物をたたんでいる母がリビングに居た。


「どうしたの? あきらちゃん。探し物?」


 芝居掛かった声でそう言う母は、わざとらしく目を見開いてぱちくりさせている。

きっとぼくがランドセルを片付けてる隙に、抜き足差し足忍び足で洗濯物を抱えて階段を降りたに違いない。


「ただいま、母ちゃん」


「あら、あきらちゃん早いのね、学校で何か有ったの?」


 まるで親子漫才みたいだが、これが中々楽しい。

 スタイルも良くないし、顔も綺麗とはいえないけど、参観日には胸を張って『母ちゃん』だと言える、自慢の母親だ。

 すると玄関のチャイムが鳴る。


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