心外だな-だって世界はこんなにも-
中庭のベンチまで、私は伏見さんの手を引いて、ゆっくりゆっくりと歩いた。あんまりにも、弱っているらしく、見かねた傍に居た看護婦が車いすを用意してくれると言ったのだが、伏見さんは断った。
「歩けるうちは、自分の足で歩く。それが生きるってことなんだ!」
と強い目力で言った伏見さんの言葉を私は忘れない。
ベンチまでは、30分もかかってしまったが、それでも私は車いすを使えば良かったとは思わなかった。
「すまんな、お嬢ちゃん。」
「あ、いえ。大丈夫ですか?」
「いいや。大丈夫だったらこんなところにいないさ。」
伏見さんは、聞き覚えのある文句を寂しくそう笑った。私は、聡くんが垣間見えて、何だか嬉しくなった。