心外だな-だって世界はこんなにも-





私は伏見さんに、小説を書いていることを話した。そして、執筆に行き詰って、取材も兼ねてここに潜入してきたことも正直に話した。



「ほお。キミは坊主とあのお嬢ちゃんの話を書いているのか。」



「ええ。実は、伏見さんも登場させてるんです。聡くんや祭ちゃんの話によく出てきてましたから。」



「ほお。それは有り難いことだ。俺、有名人になっちゃうな。サインの練習でもしとくか、はははっ。」



伏見さんはそう笑って、次には顔を歪め、苦しそうに胸を押さえた。



「だ、大丈夫ですか?」



「ああ、大丈夫。よくあるんだよ。発作だ。」



発作が治まるのを待って、私は伏見さんに取材を開始した。彼は、この物語のことを、聡くんと祭ちゃんのことを知っている唯一の人間なのだ。



「それなら坊主に直接聞けばいいだろうに。」



そう言われることはわかっていたが、誤魔化した。伏見さんは、それを疑いもせず、ふんふんと聞き届けてくれた。




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