彼の瞳に独占されています
また期待が膨らむけれど、とにかく今日は、上司と部下という関係から一歩前進できるように、永瀬さんとふたりきりの時間を満喫しよう。

そう思い、しばらく海の生き物達を興味深く眺めながら、幻想的な館内を歩いた。


屋外へ出る階段のところにやってくると、イルカショーのタイムスケジュールが書いてあるボードを見付けた。まじまじとそれを見て、私は三回目の時刻を指差す。


「あ、ちょうどもうすぐ始まりますよ!」

「ほんとだ、行こうか」


微笑む永瀬さんは、こちらに手を差し出してきた。ドキッとすると同時に嬉しさが込み上げる。

このさりげなさも素敵……!と瞳をとろけさせつつ、私は遠慮がちに手を重ねた。


むわっとした空気に包まれる会場に出ると、半分ほど席が埋まっている。

「このあたりでいい?」という永瀬さんの声に頷き、真ん中より少し上の席に来ると、すでに水で濡れている前列が見えた。


──その瞬間、何年も前の学生時代の記憶が一気に蘇ってくる。

高校の時、遠足という名の日帰り旅行で、水族館にやってきた時のことだ。

あの日も、こうやってイルカショーを見ていて、前から三列目に座る私の隣には淳一がいた。

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