彼の瞳に独占されています
「ダメ?」


永瀬さんは甘えるように、でも意地悪な目をして小首をかしげる。

ここでそんな可愛らしく聞かれたら、“はい、ダメです”なんて言えないですって……。これが母性本能ってものだろうか。

私は首を横に振り、「どうぞお好きなように」と言って笑った。


水族館へは、ここから約一時間かかる。

眩しい青が一面に広がる夏空の下、最初は緊張していたものの、次第にいつもの調子で話すことができてきて、ひと時のドライブを楽しんだ。

『今日の萌ちゃんも可愛いね』なんてセリフを、さらっと言ってくれちゃうものだから、私は赤面していたに違いないけれど。



久々に訪れた水族館は、平日ということもあってそれほど混んでいないけれど、やっぱりカップルが多い。

ぴったり身体を密着させ、ラブラブな雰囲気を漂わせる彼らを、意識してしまうのは私だけなんだろうか……。

隣を歩く永瀬さんをちらりと見上げてみても、当然ながら彼は何も気にしていない様子。

私達は付き合っているわけではないし、ましてや告白されたわけでもない。今は曖昧な関係だけど、いつかはあんなふうに親密になれるかな。

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