彼の瞳に独占されています
ぷるぷると頭を横に振り、気を取り直して催事場の準備に加わろうとした時、「長谷川さん!」と呼ぶ声がした。

振り向くと、申し訳なさそうな顔をした永瀬さんが、フロアの奥の方から足早にこちらへやってくる。


「荷物、僕が運ぼうと思ってたんだけど、マネージャーに呼ばれちゃって……ごめんね」

「いえ、大丈夫ですよ! ちょうど助っ人も来てくれたんで」

「助っ人?」

「警備員さんです」


笑って答えると、永瀬さんは思い出したように「あぁ」と言って頷く。


「そういえば同級生がいるって言ってたっけ」

「はい。職場まで一緒になるとは思いませんでしたけどね」

「縁があるんだな」


段ボール箱の中から、ビニールに包まれた商品をさっそく取り出そうとしていた彼が、穏やかな口調で言った。

「腐れ縁ですけどね」と返したけれど、それをどこか嬉しく思う自分もいる。


今までこの仲の良さに甘えて、何でもかんでも淳一に話してスッキリしていたけれど、今回はなぜか相談する気になれない。というより、永瀬さんに告白されたとか、キスされたとかいうことは、淳一に知られたくないのだ。

弥生ちゃんはこのことにも驚いていたけど、私自身でも理由ははっきりしない。

デートしたあの日から、私の中で何かが変わったみたいだ……。

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