彼の瞳に独占されています
腕を掴まれそうになり、叫び声を上げて身をかわそうとした瞬間、誰かが私と男の間に割り込んできた。

水色のシャツに、右肩に吊された警笛を繋ぐモール、濃紺の制帽が目に入る。白い手袋を嵌めた手は、右手で男の腕を掴み、左手は私を守るように伸ばされている。


「じゅん、いち……!」


見開いた目で彼を見上げる私は、緊張と安堵が混ざって胸がざわめく。誰かが呼んでくれたんだ……。

フロアが騒然とする中、淳一は鋭い眼差しを向けながらも、落ち着いた声で言う。


「お客様、皆さんのご迷惑になりますのでおやめください」

「あぁ?」

「とりあえず外へ出ましょう。もしくは、警備室に来ますか?」


一瞬怯んだ男だけど、淳一が警備員だと認識すると、「はっ」とバカにしたように笑った。


「兄ちゃん、オレだってお客様なんだぜ? そんな追い出すようなことしていいのかねぇ」


ム、ムカつくこのジジイ……!

心の中で悪態をつく私は、徐々にイライラが嫌悪感を上回ってくる。

淳一に隠れるようにしながら、理不尽な男を睨みつけていると、彼はこんな文句を吐き捨てる。


「ただの警備員に説教されたかねぇなぁ。安月給のくせに偉そうに!」


──その言葉を耳にした瞬間、私の中で何かがプツンと切れた気がした。

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