彼の瞳に独占されています
男性のお客さんに制されて、酔っ払いの男は「何だオメーはぁ!」と牙を剥いている。

ちょっとー……あんな酔っ払い久々に見たわよ。というか、このデパート内で遭遇したのは初めてだ。

私もさっさとこの場を離れたいけど、でもライスコロッケ頼んじゃったし……!と、もたもたしているうちに、彼はこちらに近付いてくる。

眉をひそめて、ちらっとそちらを見た瞬間、ばっちり目が合ってしまった。

うわー、ヤバい!

ぱっと顔を背けて知らんぷりしたものの、時すでに遅し。


「ほぉ~ここにもおねーちゃんがいたか。べっぴんさんだなぁ!」


大きなガラガラ声がすぐそばで聞こえ、背筋にぞわぞわっと悪寒が走る。

あぁやだやだ、早くコロッケもらって帰ろう!

戸惑う店員さんに、引きつった笑みを浮かべて手早くお金を渡していると、男の声の調子が荒々しいものに一変する。


「なんだなんだ、シカトかぁ? ったく、ちょっと褒めたらいい気になりやがって」

「なっ……!」


なってないし!と思わず反論しそうになったけれど、酒臭さに“うっ”となる。もう本当にやめて~!

知らんぷりすることしかできずにいる私に、男の手が伸びてきた。


「聞いてんのか姉ちゃんよぉ!?」

「きゃ……っ!」

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