彼の瞳に独占されています
淳一は海を見つめたまま、ふいにこんなことを言う。


「中学のとき、臨海学校で肝試しやったよな」

「あーあったねぇ」


懐かしい思い出が蘇ってきて、私は膝を抱えながら表情を緩ませる。

臨海学校とは、一泊二日で海にやってきて、潮干狩りやウォークラリーをしたり、飯盒炊爨でご飯を作ったりする行事だ。

夜は班ごとに分かれて肝試しをやったのよね。宿泊施設の敷地内でやったのだけど、先生たちの仕掛けも気合いが入っていて、結構怖かった覚えがある。


「俺らの班、途中で懐中電灯の電池切れてさ。転んで泥だらけになるわ、女子は泣くわで散々だったよ」


苦笑する淳一だけど……そういえば、いまだに明かしていなかったっけ。

私たちの班はイタズラ好きなメンバーが多くて、淳一たちが使う懐中電灯の電池を、古いものにこっそり変えていたことを。


「ごめん、あれ仕組んだの私たち」


約十年ぶりに白状すると、こちらを振り向いた彼の眉間にぎゅっとシワが寄る。


「マジかよ、ふざけんな」

「あっははは!」


おかしくて大笑いする私をよそに、淳一は「お前らだったのかよ……」と悔しげに呟いていた。

ひとしきり笑うと、塞いでいた気持ちが、だいぶスッキリしていることに気付く。淳一のおかげだ。

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