彼の瞳に独占されています
すると、弥生ちゃんの表情もゆっくり綻び、なぜかちょっぴり意地悪な顔になる。


「怒られて“ありがとう”だなんて、先輩もしかしてMですかー?」

「はぁ?」


斜め上を行くような返事が来て、私は間抜けな声を漏らした。しかし、クスクスと笑う様子はいつもの弥生ちゃんと変わらない。

真面目な表情に戻った彼女は、汚れのない澄んだ瞳で私を見つめる。


「……よかった。先輩に嫌われたらどうしようって、後からすごく不安になって。あんなふうに言っちゃったこと、後悔してたんです」


弥生ちゃんも頭を下げ、肩から絹のような長い髪の毛がさらりと流れ落ちる。


「あたしこそ、厳しいこと言ってすみませんでした。でも、先輩のこと大好きですから」


すぐに顔を上げた彼女の大きな瞳は、若干潤んでいた。

じん、と胸が熱くなり、私もつられて鼻の奥がツンとする。

亀裂が入った女の友情を元通りにすることは、きっと彼氏と仲直りすることの何倍も難しい。こんなふうに言ってくれる子と友達でいられることを、本当に幸せに思う。

私も、弥生ちゃんのことが大好きだよ。


さりげなく目尻を指先で拭い、照れ隠しで「どさくさに紛れて告白しないでよー」と言いながら、彼女の小さな背中をパシッと叩く私。

痛がる彼女と笑い合い、わだかまりがなくなったことに心底ほっとしていた。

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