彼の瞳に独占されています
この日、永瀬さんはお休みだったため、翌日の朝、朝礼を終えてすぐ彼を呼び止めた。
皆がそれぞれの売り場に戻り始め、周りに社員がいなくなるのを見てから、真剣な表情で言う。
「永瀬さんにお話したいことがあるんです。いつでもいいので、お時間いただけませんか?」
それだけで私の話の内容をある程度悟ったのか、彼の表情が一瞬強張る。しかし、すぐにいつもの柔らかな笑みに変わった。
「わかった。じゃあ、仕事が終わってからでもいいかな? 今日はお互い早番だよね」
「はい。お願いします」
頭を下げる私を、永瀬さんは口角を上げたまま見つめていた。
早番の退勤時間は午後六時。仕事を終えると、永瀬さんに提案されたデパート内のカフェにふたりで向かう。
二階にあるこの“adoucir(アドゥスィール)”は、アンティーク調の内装が落ち着いた雰囲気で、ケーキが美味しいと評判のお店だ。閉店時間が近くなると、店頭販売しているケーキが半額になるため、それを買い求める女性客が多数やってくる。
永瀬さんが外のレストランではなくここを選んだ理由が、なんとなくわかる気がする。のんびりと夕飯を食べながら話す内容でもないと思ったんじゃないだろうか。
気まずさと若干の緊張で、私の口数は少なく、とりあえず頼んだカフェラテのきめ細かい泡を眺めていた。