彼の瞳に独占されています
「だから、なんとなくわかってたよ。君が僕を選ばないってことは」


品の良いクラシックが流れる中、永瀬さんは切なげな笑みを浮かべて続ける。


「でも、自分から諦めることはできそうになかったから、今日はっきり言ってくれてよかったよ。……君がちゃんと終わらせてくれてよかった」


彼の気持ちがひしひしと伝わってくる。こんな私に最後まで優しい言葉をかけてくれるから、目頭がじんわりと熱くなった。

すみません、ともう一度頭を下げる私に、永瀬さんは「もう謝らないで」と笑う。罪悪感は消えないけれど、彼の心遣いのおかげで気まずさは薄れつつあった。

話が一段落つき、お互いカップを口に運ぶと、永瀬さんが何気ない調子で問いかける。


「彼とはうまくいきそうなのか?」

「いえ……正直、まったく」


私は両手でカップを置き、苦笑を漏らしながら素直に答えた。

好意を持ってくれている人に、自分の好きな人の話をするのは微妙だけれど、彼の優しさについ甘えて本音をこぼしてしまう。


「告白するかどうかもわかりません。これまで素の自分を見せすぎちゃってるから、今さら“女”になるのが抵抗あったりもするんです」


そう、私が告白をためらう理由は、過去に付き合っていたこと以外にもあるのだ。

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