ミラージュ

「おっ、いいじゃんナツ!タイム、ここ最近で一番いいよ」

ストップウォッチを持った先輩が、笑顔でタイムを告げた。競技場で走った時の記録と並ぶタイム。思わず「やったっ」と小さくガッツポーズした。

と同時に、後ろを振り向く。スターティングブロックの横には相変わらず綺麗な顔で浅井良平が立っており、グラウンドを見渡しているみたいだった。あたしは駆け寄る。

「ありがとう!浅井君のアドバイス、凄いよかった」

あたしは笑顔で言った。さっきまでの気まずい雰囲気は、少なくともあたしの中にはなかった。

「…どういたしまして」

グラウンドに向けていた視線は、あたしに向く。綺麗な形の口の端を少しだけあげて、予想を裏切らない綺麗な笑顔をくれた。

走った時より心臓が早い。頬の紅潮は、走ったせいにする。

思わず視線をそらす。益々早くなる心臓。



思えばここから、あたしの良平に対する片思いが始まったんだ。



< 23 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop