ミラージュ
「あ、あたし帰らなきゃ」
立ち上がったあたしを、良平と紗耶香ちゃんが驚いて見つめる。
「紗耶香ちゃん部活終わったん?」
「あ、うん。さっき」
「じゃあ良平貸しちゃげるよ。こいつ頭と要領だけはいいからさ、テストに出そうなとこ聞けばいいよ」
「おい、ナツ…ッ」
「あたし用事思い出したから」と良平を遮り、荷物をまとめた。
良平の横を通る時、「アイスよろしくね」と呟き、紗耶香ちゃんに「席使っていいよ」と促す。
「じゃあねっ」
戸惑った表情の二人に背を向け、夏空の下へと向かった。
歩きながら思う。逃げたな、あたし。
良平が紗耶香ちゃんを好きなことなんか一目瞭然で、あたしはその気持ちが痛いほどわかる。
良平の恋がうまくいってほしいと思う程大人にはなれないのに、恋する良平を側で見てる自信なんか微塵もない。
結局はあの場から、離れることを最優先させてしまった。
もしかしたら二人が、今以上に近付くかもしれないのに。
「…ずるいなぁ、あたし」
傷付く資格なんて、あたしにはないのに。