ミラージュ


「ナツ」

不意に良平が呼んだ。窓から視線を戻すと。あたしの教科書の上に200円が置いてあった。小首を傾げて言う。

「何?」
「お前が言ったんじゃーや。アイスが食べたいって」
「嘘、まじで奢ってくれるそ?」
「出世払いな」

素っ気なくそう言い、意味もなく国語の教科書を捲る良平。
そんな不器用な優しさに、あたしは胸が高鳴った。

「俺モナカな。バニラ味」
「あたしが買ってくるそ?」
「奢っちゃるんじゃけそれぐらいしろよな」

はいはいと言いながら、内心嬉しくて仕方なかった。

「ダッシュで買ってこいよ!」

照れ隠しなのか、良平のそんな憎まれ口を背中に浴びながら、あたしは教室を駆け出した。

夏の空気があたしの作り出す風に変わっていく。

嬉しくて、でもどこか切なくて…あたしはそんな気持ちを抱えながら、学校前の駄菓子屋に急いだ。














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