ミラージュ
……………
カサカサと、夏の廊下にビニール袋の擦れる音が響いた。ビニール袋も暑いのか、じんわりと汗をかいている。
溶けない内に教室に戻らなきゃ。あたしは自然と足を早めた。
渡り廊下に差し掛かる。中庭には蝉がいて、うるさい程懸命に鳴いていた。姿は見えない。どこにいるんだろうと、目を凝らしたその瞬間だった。
「あははっ、浅井君って面白いんだねっ」
廊下を渡る足が止まった。見計らったかの様に、蝉も鳴くのをやめる。
教室の前の廊下には、制服を着た紗耶香ちゃんがいた。
窓を挟んで向こう側にいる人は、考えなくても一人しかいない。
固まったあたしの耳には、紗耶香ちゃんの笑い声に被さる様に良平の笑い声が届いた。
思わず壁の影に隠れる。
「浅井君、もっと静かな人かと思っちょった」
「俺人見知りじゃけぇさ」
「えぇ?人見知り期間長いよ~」
可愛い紗耶香ちゃんの笑い声が、あたしの心を冷たくした。
良平の笑い声が冷えた心に傷をつける。