ミラージュ
…わかってた。
あの日二人きりにしてしまったことで、もしかしたら二人が近付いてしまう可能性もあることくらい。
ううん、好きな人と二人きりなんだもん。
いくら人見知りの良平でも、何らかの行動には移すはずで。
壁からそっと、教室の方を見た。
紗耶香ちゃんの笑顔。女の子らしい可愛い笑い方で、肩が揺れる度に長いふわふわの髪も揺れる。
紗耶香ちゃんもきっと、満更でもないはずで。
ここから良平の顔は見えなかった。ただ声だけが届いてた。
どんな気持ちで見てるんだろう。
大好きな人の笑顔を、あのふわふわの髪を、この夏の陽射しの中で。
そっとしゃがんで膝を抱えた。
思い出したかの様に蝉がまた鳴き出した。
泣きたかったけど、涙の前に笑いが出る。
「…自業自得じゃろ」
あたしは良平が好きで、良平は紗耶香ちゃんが好きで、それは変わらない一方通行で。
認めたくなくても認めるしかない。
夏の廊下は、蝉の鳴き声と二人の笑い声に満たされていた。
あたしの入る隙間なんか、どこにもない。