ミラージュ
……………
「お、やぁーっと帰って来た」
参考書を捲っていた良平が、入り口のあたしに気付いて言った。
俯いたまま教室に入る。
「何?駄菓子屋混んじょった?」
冗談めいて言う良平。その笑顔が、今は痛い。
さっき紗耶香ちゃんと話してた時もその笑顔だったの?
「ナツ?」
ねぇ良平。あたしこんなに嫌な奴なんだよ。
良平が紗耶香ちゃんを好きなのなんかわかってる。誰よりもわかってるはずなのに、その気持ちを応援できないでいる。
自分じゃ何も良平に伝えることができないくせに、良平が紗耶香ちゃんと仲良くするのが死ぬほど嫌で。
紗耶香ちゃんの笑顔が、紗耶香ちゃんの笑い声が、紗耶香ちゃんのあのふわりとした髪の毛が。
羨ましくて、憧れてて、それでいてこんなに、嫉妬してる。
…紗耶香ちゃんなんていなきゃよかったって、あたしは何度思っただろう。