ミラージュ
「ちょ…ここ、女子の部室やよ?」
「ナツしかおらんのじゃけええじゃろ」
「もぉ…相変わらずなんじゃけ」
部室を見渡す良平を見ながら、こんな自然に以前みたいな会話が出来ることに驚いた。
そうだ。あたし達は別に、気まずくなる必要なんかない。
だってあたしの気持ちは良平に伝えてないんだし、良平の気持ちはもう、紗耶香ちゃんに通じてるんだし。
「ナツ、入試どうじゃったん?」
「ん?バッチリ合格圏内」
「まじ?あのナツが…」
「失礼なね~!夏からあたし、生まれ変わったみたいに勉強したんじゃけね!」
夏。
不意に、あの蝉の鳴き声とアイスの香りが蘇る。
「うん。知っちょる」
良平はそう呟いて立ち止まった。
あたしも口を閉じる。
落とした視線を上げた。あたしを見ていた良平と目があう。
胸の高鳴りも、あの頃と何一つ変わってなくて。
「はい」
不意に良平が右手を差し出した。意味がわからず眉間にしわを寄せるあたしの右手を取り、その手のひらにそれを乗せる。
「…これ…」
コロンと転がるそれ。驚いてそれ以上何も言えない。
それは、良平の第2ボタンだった。