ミラージュ
「…俺、ナツの気持ちわかってたよ」
思わず顔を上げた。
真っ直ぐに良平は、あたしを見つめる。
「ナツが俺の気持ちわかってくれてたみたいに、俺もナツの気持ちわかっちょった。多分、ナツよりもずっと」
…良平よりもあたしの方が、良平の気持ちをわかってる。
あたしは何度、そう思っただろう。
卒業式では泣かなかったのに、思わず視界が歪んだ。
良平はあたしの頭に手のひらを乗せた。
いつかのあの日みたいに。でも少しだけ、その手は大きくなってて。
「…ありがとな、ナツ」
それだけ言うと、良平は歩きだした。
部室を出ていく。良平の足音が遠ざかる。
『ありがとな、ナツ』